森林組合への期待

●以下は、ぐりーん&らいふ2014年春号に掲載された報告「森林組合への期待」です
  

  

さらに先を見据えた再生政策を


 森林・林業再生政策は、3.11の東日本大震災を経て地域資源の見直しや再生可能エネルギーの利用が進む中で2012年度から政策の基本となる市町村森林整備計画や森林経営計画の策定が始まって2年。この間、森林整備の中核を担う森林組合は、本誌FRONT80で紹介された先進事例等を参考に施業集約化や森林経営計画作成に取り組んでおられると思う。筆者は必ずしも林業・木材産業の事情に精通しているわけではないが、森林の多面的機能の発揮の観点からも森林組合への期待は大きい。そこでこれから地域の森林整備を進めるうえで考えて欲しい視点のいくつかを述べてみた。   

  

3つの基本

 森林・林業再生政策の基本は@森林・林業基本法に謳う森林の多面的機能を持続的に発揮させる森林整備、A森林バイオマスのエネルギー利用を含む森林資源の利用拡大による低炭素社会への貢献、そしてB林業・木材産業の振興を核とした山村社会の復活であろう。
 このうち、Aについては森林・林業界自身の努力だけでは限界があり、本誌でも国民全体、とりわけ都市の消費者への説得が重要であると再三述べてきた。
 @についても現場での対応は「護る森」と「使う森」を意識し、いわゆる利害関係者の合意形成を踏まえた科学的ゾーニング(機能の階層性への配慮など)と、使う森、中でも人工林での生物多様性保全・国土保全(森林認証制度の導入が望ましい)が重要であると指摘してきた。特に、市町村森林整備計画ではゾーニングが基本であること、これまで水源涵養機能の発揮を重視してきたかなりの地域(水源林)で木材生産機能の発揮が見込めること、いわゆる「里山」として使われてきた地域の大部分でも木材生産を行うべきであること等を主張してきた。一方Bについては森林組合の主戦場であり、多くの専門家の指導や提案があるが、それらに加えて以下のような視点も考えられる。   

  

「護る森」と「使う森」

 森林組合の最も重要な仕事となった森林経営計画の策定では路網整備計画を含む伐採計画が中心課題であるが、計画対象区域内での伐採が想定されない森林の管理はもちろん、区域内外の森林の多面的機能も意識した計画を考えて欲しい。すなわち、木材生産以外の機能にも目を配った計画とするべきであり、この点で市町村森林整備計画との調整が極めて重要であろう。市町村森林整備計画では当然「護る森」のほか、保健・休養林など木材生産以外の「使う森」も対象となる。私はこの部分が森林組合の将来の事業対象となるケースが増加すると考えているので、森林経営計画での配慮も必要ではないかと思っている。
 施業集約化、団地化は境界の確定という困難な仕事を伴い、さらに地元に不在の森林所有者との交渉も含まれるので、目的達成までには並々ならぬ苦労が伴う。したがって、それらを乗り越え関係者の合意形成にまでもっていく努力には頭が下がる。境界確定については林業の科学的経営に不可欠な基盤整備の一端であり、不況の時代に国家事業として地籍調査をおこなえば測量部門を持つ土木建設業界の活性化につながるとしてその実施を強く望んでいたが、3.11後の土木建設業界の活況のなかでは実現不可能となった。幸い境界確定作業に関する先進森林組合によるアイデアも公表されており、今後作業が進むことが期待される。しかし、境界確定にしても合意形成にしても時間の経過とともに世代交代や相続の面でより困難が増えるので、これから集約化を考えている区域があれば先進事例を参考にして急がれた方がよいように思われる。   

  

条件不利地対策も必要

 また、これらの集約化、団地化においては意欲ある自伐林家とも連携した取り組みが望まれる。土地所有と経営の分離を原則とする森林経営計画ではあっても意欲ある中小規模自伐林家を育てることは森林組合の使命でもあろう。
 林道や森林作業路などの路網整備計画を含む伐出計画では架線系の利用をもっと重視すべきである。急傾斜地では林道や作業路とタワーヤーダ等を組み合わせても伐出作業の効率は必ずしも向上しない。平地が多いドイツは言うに及ばず、急峻なオーストリアと比較しても日本の急傾斜地の基盤岩のもろさは尋常ではない。また、こうした急傾斜地で安全かつ安定した林道等を作設する場合、技術的には可能でも作設経費がどうしてもかさむ。したがって急傾斜地域には国土保全上の効果を含めた条件不利地対策としての助成制度を導入して、架線系を用いた伐出計画も積極的に認めていくよう施策の改善が望まれる。
 集約化・団地化は100ヘクタールを目安に行われているが、一方でその先はどうなのかという声も聞かれる。まず川中に対しては大規模森林所有者や他の林業事業体、国有林などとの流域(地域)単位での協同の努力が考えられる。近年乾燥や製材などの川中の改革が進み、森林・林業再生政策では川上(山元)が中心となっているが、再生政策の効果で材が順調に出だした場合に備えた、更なる川中改革も必要だろう。   

  

新規事業開拓で活性化

 これまでおもに森林整備事業を行ってきた森林組合だが、今後は事業を拡大することを考えている組合も多いだろう。その場合、高性能林業機械の共同利用などでも含めて自伐林家との共栄を図るべきであろう。さらに柔軟に考えれば、乾燥、製材、販売も含めて流域内の他の森林組合、大規模森林所有者、他の林業事業体、さらには国有林までも含めた地域共同体としての取り組みも考えられる。
 私は森林組合が山村社会活性化の核となるためには新規事業を開拓・開発していく必要があると思う。かつて森林からは建築材や薪炭材ばかりでなく、キノコ類や筍、落葉などの林産物を大量に得ていた。かつての山村ではそれらのすべてを活用していた。したがって、ペレットやバイオマス発電燃料に代表されるニュー薪炭材(C材、D材、林地残材)、腐葉土・堆肥、さらには鹿肉などのニュー林産物の出荷・販売はもちろん、将来は地域を保健やレクリエーション、環境教育、エコツーリズムの場として提供する事業も考えてよいだろう。現代の山村の活性化とは「森林の多面的機能を持続的に発揮する森林整備」を生かした活性化であり、その具体化が求められているのである。森林の劣化を伴っていたとは言え、かつて山村が輝いていた時代には山村はそのような場所であったと思われる。
 私は森林全体の管理は人工林を中心としたおもに木材生産機能を追求する区域とそれ以外の区域に大別して考えると分かりやすいと思っている。その場合、後者には「護る森」として治山事業の対象となる保安林や獣害防除の対象となっている生物多様性保全区域(保護価値の高い森林)だけでなく、「使う森」である保健・レクリエーション区域も含めて考えている。そして、これまでの森林組合は一部を除いて林業・木材産業にかかわる事業・作業のみを対象とし、組合の維持のために治山事業に関わる作業を取り込んでいたように思われるが、今後は前述した後者の区域に関わる事業・作業も積極的に対象としてよいのではないかと思う。例えば、保護価値の高い森林の管理事業(獣害防除事業など)が考えられる。   

  

直接支払い制度の導入も

 それにしても林業・木材産業の出荷額は停滞している。森林・林業界でいかに努力してもその劇的回復は望めそうにない。回復の基本は消費者に代替材利用から木材・木製品利用に乗り換えてもらうことであるが、簡単なことでないのは目に見えている。先日消費者団体の勉強会で講演した際、木製品を使って欲しいと言われるが、材木以外の木製品はどこで手に入れたらよいのかと詰問された。考えてみれば川下対策もまだまったく不備であると実感した。
 山村社会を活性化するためには、これまで外部経済として貨幣評価されてこなかった森林の多くの公益的機能の発揮に対して、応分の助成を森林所有者(多面的機能の発揮を義務付けられている)に付与する必要があるだろう。その理由は、地下資源を利用した工業(CO2などの廃棄物を撒き散らしている)の生産性が林業の生産性よりはるかに大きいというアンバランスの下で、森林・林業界は代替材と競争させられていることを説明すれば足りるだろう。
 近年、環境経済学分野での研究が進展し、従来評価されてこなかった森林の公益的機能の価値を貨幣価値で評価する方法が開発され、実用に供されている。すなわち、森林の費用便益分析と呼ばれるもの(費用対効果分析あるいはBバイC計算などとも呼ばれる)で、新規事業を採択する際の事前評価などに取り入れられている。私は林野庁のこの関係の委員会に長年関係しており、最近はCVM(仮想市場調査法)により貴重な森林生態系の保全にかかわる費用への国民の支払い意志額を調査することによって当該森林の生物多様性の価値を評価するなども行われている。また、昨年4月に開催された第10回国連森林フォーラムでは、各国が森林の多様な価値を的確に評価し、森林保全に活かしていくことが決議された。
 しかし、公益的機能を発揮している森林の維持や通常の管理に対して費用便益分析の結果を適用するまでには至っておらず、森林の公益的機能の発揮に見合う直接支払い制度はほとんど進展していない。私は一般的な人工林でさえも貴重な森林生態系を保全する地域の第2のバッファゾーンとしての価値があり、その他の多様な公益的機能も考慮すると、前述の「護る森」の森林所有者はもちろん、「使う森」に関してもその維持に直接支払いをおこなっても良いと思う。森林所有者はそのような制度によって収入の底上げを得た上で、多面的機能の持続的発揮の範囲内で自由に森林を利用し、利潤の追求を行えるようにすることが山村を復活させる基本であると思っている。   

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