国産材需要拡大

●以下は、ぐりーん&らいふ2013年秋号に掲載された報告「国産材の需要拡大」です
  

  

国産材の総需要拡大に向け、総力を挙げて消費者の説得を


 本誌春号で述べたように、国産材の利用促進の究極の目標は消費者レベルでその総需要を拡大することである。しかるに消費者の木材製品使用への関心はなかなか盛り上がらない。その理由の最大のものは地下資源を原材料とする代替材の魅力が極めて大きいことであろう。そのほかにも消費者が木材を利用しない理由はいくつかある。これらの原因を解消し、国産材の総需要拡大に向けて消費者を説得する方法を考えてみる。   

  

消費者に届かぬ施策・運動

 先日、春号でもふれたウッドマイレージの考え方を普及させたウッドマイルズ研究会の発足10周年記念フォーラムに参加させていただいた。研究会はこれまでにツールの開発を中心に大きな成果を上げてきているが、研究会の働きかけの先が工務店・住宅メーカー、あるいは地方公共団体などに限られていることが多少気になった。また、同フォーラムでは林野庁から公共建築分野における木材利用推進策や再生可能エネルギー固定価格買取制度の現状、事実上今年度スタートした木材利用ポイント制度の紹介があり、国土交通省からは地域型住宅ブランド化事業や木造建築技術先導事業など同省の木造優良住宅建築促進への支援策についての説明があったが、これらの各種施策の大部分もまた業界や行政に対する働きかけの段階にとどまっているように思われた。
 確かに新しい施策や運動を一般の消費者や市民を対象として展開する場合、最初から直接消費者や市民に呼びかけるのは効率的ではない。消費者や市民に接触する機会の多い業界その他の関係者をまず説得し、そこから消費者や市民に働きかける方が有効である。しかしながら木材利用推進の場合、その部分は林野庁よりはむしろ経済産業省や国土交通省の所掌範囲であることが多く、三者の連携は必ずしも良好ではなかった。森林・林業界の悲願である需要拡大運動が近年やっとそのことに気付いた結果、前述の各種施策が始まったと言える。
 しかしながら一方で最終のターゲットである消費者や市民への直接的な働きかけもなければ、施策や運動の爆発的な広がりは期待できないと思われる。平成17年度から始まっている木づかい運動がそれにあたるが、まだ爆発的な普及にまでは至っていない。また、新たに始まった木材利用ポイント制度は地域材利用に関して直接消費者にインセンティブを与える制度であって歓迎されるが、おもに木造住宅の新築を考えている人に限定される点を考えると、国産材需要の中核をターゲットとしているものの、木材製品の総需要拡大に対する効果は限定的かもしれない。   

  

なぜ木材製品は積極的に使われないのか

 ところで、これまで再三述べてきたように、私は持続可能社会における木材利用の最大のメリットは低炭素社会への貢献であると思っているので、木材製品の総需要拡大を最も重視している(注1)。すなわち、現代物質文明は地下資源の利用を前提にしているが、それが各種地球環境問題を引き起こしている元凶であり、持続可能な社会で地上資源たる生物資源の利用こそ推進すべきものであるとして、持続可能な社会での木材利用の必要性・重要性を主張してきた。
 結論は木材の利用はカーボンニュートラルであるから低炭素社会において最もふさわしい資源であるということであって、林野庁を中心とした森林・林業界の主張と同一であるが、これまでのたび重なる広報の努力にもかかわらず、これによって特に木材需要が伸長したという兆候はない。
 そこで改めて、なぜ人々が木材製品を積極的に使おうとしないのかを考えてみたい。

 持続可能な社会では木材製品の使用が不可欠だと言っても(それを理解してくれる人はかなりいる模様だが)、消費者が積極的に使おうとしない理由は二つある。
【46億年の地球環境の進行に逆行】
 一つは、本誌春号の繰り返しになるが、日常生活において地下資源起源のいわゆる「代替材製品」の魅力が極めて大きいからだろう。
 まず現代社会では大型構造物の建設に鉄やコンクリートが不可欠であることは論を待たない。また、私たちが使う設備や器具・道具・家具、さらに日用品に至るまで地下資源起源の構造物・製品は身のまわりに溢れている。その家具や日用品は強度・耐久性・耐火性・使い勝手に優れ、その上安価である(100円ショップの商品は安すぎる!)。人々がこれらを利用しないはずがない。一方で大部分の地球環境問題を引き起こしているという地下資源利用の欠点への理解はいっこうに進んでいない。
 そこで私は「新しい森林の原理」で、これも春号の繰り返しになるが、現代文明を支える地下資源の利用は46億年に及ぶ地球環境の進化に逆行する行為であって、それは現代文明が抱える本質的欠陥であると断じたのである。本誌の読者にはこのことも是非ご理解いただきたい。<例えば木づかい運動などでも木の良さを語るとともに、地下資源利用の欠点も合わせて語ってほしい。>
【地球温暖化への理解不足】
 そしてもう一つは地球温暖化の進行の切迫性が理解されていないことである。
 私たち林業界が温暖化問題を特に身近に感じるようになったのは森林吸収源対策が課題となってからであるが、国際的には地球サミット、京都議定書、ゴア副大統領の著書「不都合な真実」、IPCC第4次評価報告書(ノーベル賞受賞)等を経て人々の意識は徐々に高まり、日本国内では近年の気温上昇や低炭素社会が話題になって一般化した。
 しかしながら福島第一原発事故や日本政府の京都議定書一時的離脱等により、低炭素社会への意識は低下している(注2)。けれども、実際には地球温暖化はますます進行している。地球上で初めて二酸化炭素濃度を継続的に観測し始めたハワイ島・マウナロア山での観測値が史上初めて400ppmを超えたという。
 IPCC第4次評価報告書が危険なレベルと警告した425ppmに迫っているのである。さらに、今秋発表されるというIPCC第5次評価報告書の内容は極めて深刻であるという。私たち自身がこの事実を真剣に受け止め、もっと木材製品を利用し、社会に向けても声を上げて説得すべきである。それは私たちが低炭素社会の実現に協力することを超えて、林業の活性化につながる王道であることを理解して欲しい。   

  

日本の森林・林業に対する誤解

 ところで、人々が木材製品を積極的に使おうとしない理由は、実はもう一つ考えられる。それは、日本人の心の中に「木を伐って使うことは環境の破壊につながる」とか、前号で詳しく述べたように、「針葉樹人工林は自然の生態系を破壊している」という、日本人と森林の関わりの歴史に根ざした「民族の確信」ともいうべきものが存在している上に、マスコミの影響もあって「日本の森林はいまも減少し続け、荒廃している」といういわば事実誤認が浸透していることであろう。この最後の点は拙著『森林飽和』に対する一般読者の反応から明らかである。
 したがって、これら3つの呪縛から人々を解き放してやらなければ、木造住宅や木材製品への需要が画期的に増加することないと推測している。
 そこで、上述の第3の点から言えば、現在すでに森林蓄積が増加しているという事実を過去に森林が劣化・荒廃していたという歴史的事実とともに繰り返し説明していく必要がある。説明には『森林飽和』で示した内容を是非利用して欲しい。   

  

森林認証制度の積極的な活用を

 また、第2の点に関しては、自然の森林に限りなく近い人工林を育成し得る技術があることを人々に具体的に示せばよい。
 その方法の一つに「森林認証制度」を活用する方法がある。私はFSCの森林認証制度に関わっているが、この制度では生物多様性の保全を最重要視している。日本で最初にFSC森林認証を取得した速水林業の針葉樹人工林では、その生物多様性の中味は自然林に引けをとらない。森林認証制度がヨーロッパ諸国のように普及すれば、第2の呪縛を解き放すことができるだろう。
 森林・林業界はもっと積極的に森林認証制度に取り組み、消費者を安心させるべきである(一方で、前号で示したスギやヒノキの人工林生産が森林の利用法として極めて優れた方法であったことも主張する必要がある)。
 そして第1の懸念、すなわち林業は森林の環境を劣化させる産業であるという昔ながらの懸念を払拭するためには、森林・林業界は林業が環境保全と両立する産業であることを常に具体的に示し続けることである。路網の伸長や高性能機械の導入、作業の効率化は林業の発展にとって必須であるが、国土保全や生態系保全も森林管理の面で同様に必須であることを理解して欲しい。
 農業では農産物生産が主であって、環境保全に配慮すればよいが、林業ではむしろ環境保全が主で、その前提の下で木材を生産するのである(そこが農業との違いであるが、その責務に対する対価、すなわち公益的機能の保全に対する助成が不十分であるのが遺憾である)。すなわち、森林の管理は森林の多面的機能の持続的発揮が基本であり、木材生産のみを突出させた管理を行っていては、人々の心の中に住み着いている第1の懸念を払拭することはできないのである。林業家はこのことを特に肝に銘じて欲しい。
 そしてこの点を実践していることを社会に明示する方法としても森林認証制度の積極的活用が有効なのである。また、為政者はもっと積極的に森林管理への助成制度を充実させて欲しい。

 本号では過去数回にわたって掲載して頂いた内容を再整理して、木材製品の使用促進に関する私の消費者説得術としてまとめさせて頂いた。
 そして何よりも、森林・林業界は消費者や市民を意識したこうした行動を一体となって進めていくことが望まれると考えている。

注1:極端に言えば、国産材、外材を問わず、まず木材製品の総需要拡大である。その上で国産材・地域材と外材との差別化はウッドマイレージによるべきであると考える(春号参照)。
注2:ただし、エネルギー問題では原子力エネルギーへの不安から自然エネルギーやバイオマスエネルギーなど地上資源ともいえる再生可能エネルギーの開発がようやく動き出したように見える。   

トップページへ戻る inserted by FC2 system