提言・提案の概要

(Vir.1、2010年1月)
  

以下の提言・提案の大部分は関連する政策・事業等を検討する際の基本的枠組み・考え方として提言するものである。個々の政策・事業に関する提案は随時行っていきたい。   

    森林・林業政策

  1. 日本の森は今400年ぶりの“豊かな”森を取り戻している。森林に関連するすべての問題はこの事実を前提として議論する必要がある。(解説済・2010年1月、NHKブックス「森林飽和」)
     簡単な解説:
    現在の日本の森林を“豊かな”森と表現する意味は、100年前(50年前でも良い)の森の姿を正確に知れば分かるはずである。その頃の日本には、途上国で現在見られるような荒廃した森林が里山を中心に広がっていた。
     関連著作:
    ・「豊かな森」をいかにして持続するか―「荒廃」神話をこえて、都市問題 Vol.98 No.13 48-56、2007.12
    ・森林の変遷と現代の森林“荒廃”、水利科学No.304 3-28、2008.12(上記レポートを改訂補充)
    ・里山の真実、全12回、農業協同組合新聞(旬刊)、2007.12より2009.2まで月1回のペースで掲載
    ・日本の山地・森林の変遷、「全国植樹祭60周年記念写真集 かつて、日本の山にはこんな姿もあった」46-47、国土緑化推進機構、2009.5
    ・森林の現状をどう見るか、土木学会誌94(11)第28回論説(土木学会論説2009.9月版A)、2009     

  2.     
  3. 持続可能な森林管理・林業を推進するため、森林認証制度を積極的に活用するべきである。(提言と解説(2)
     簡単な解説:
    森林と人間の関係に関する「森林の原理」によれば、森林の環境保全機能等と木材の利用等はトレードオフの関係にある。森林の多面的機能の持続的発揮のためには適切な管理により両者を両立させる必要がある。その論理は自明であるが実行されていない。森林認証制度の活用等により早急に実行すべきである。
     関連著作:
    ・「地球環境・人間生活にかかわる農業・森林の多面的な機能の評価について(答申)」日本学術会議(農業・森林の多面的機能に関する特別委員会)(幹事、森林ワーキンググループ・座長としてドラフトを執筆)、2001.11
    ・森林の多面的機能、「農林水産業の多面的機能(編著)」55-95、農林統計協会、2006.12、(上記答申の保存版)
    ・日本学術会議答申「農業・森林の多面的な機能」<第V章>の読み方、林業技術No.719 8-17、2002
    ・森林の原理、「森林の機能と評価(木平勇吉編著)」17-41、日本林業調査会、2005.6     

  4.  
  5. 森林・林業政策の基本的枠組みは、林業は農業とともに光合成生産に依存しているものの、むしろ農業との“差異”を明確にすることにより合理的に説明できる。
     簡単な解説:
    人類の生存に不可欠な食料を生産する農業と環境保全を本質的機能とする森林管理(林業生産を含む)を、ともに光合成生産を前提とするとの発想から農林業としてひとくくりに議論すると森林問題の本質を見誤る。森林・林業政策は農業政策と切り離して議論するべきである。
     関連著作:
    ・森林の管理と利用、「農業・農学の展望 循環型社会に向けて(21世紀農業・農学研究会編)」110-133、東京農大出版会、2004. 1     


  6. 国等による森林・林業への助成拡大策(所得保障など)は、工業生産との本質的相違を説明することによって、その正当性を主張できる。
     簡単な解説:
    光合成を基本とする林業の生産性と、原料及びエネルギーをともに地下資源から得て“加工”のみを行う工業の生産性には本質的な格差がある。後者が事実上際限なく獲得できるエネルギーを用いることにより豊かな文明(所得)と環境汚染(温暖化を含む)を同時にもたらした事実にかんがみ、環境保全機能の発揮を前提とする森林・林業界への助成拡大策(森林所有者への所得保障など)の実施には正当性がある。代わりに森林所有者には森林の環境保全機能を発揮させる責務がある。
     関連著作:
    ・循環型社会における森林・自然域の管理―都市、農耕地・農村、森林・自然域の比較から―、「循環型社会と環境問題特別委員会報告 循環型社会形成への課題―“物活かし大国”に向けて―」29-37、日本学術会議循環型社会と環境問題特別委員会、2005.5
    ・地球温暖化に対応する新しい森林管理のあり方、会員制寄稿誌「日本の森林を考える」No.31 4-15、第一プランニングセンター内「日本の森林を考える」編集部、2007. 4     


  7.     
  8. 森林管理をいっそう科学的・合理的に推進するためには、森林の実態を精密・正確に示すデータベースの構築を直ちに開始するべきである。
     簡単な解説:
    既存の森林簿・森林基本図等は実態と乖離し、森林GIS の能力は見掛け倒しに見える。上述したデータの整備は森林の管理を都市社会を構成する各種セクター並みの管理水準に引き上げるために不可欠な処置である。森林・林業界の個別問題の1つであるが、極めて重要なのでここに挙げた。

  9. 持続可能な社会

  10. 炭素税は化石燃料の使用という“地球の進化に反する行為”のペナルティーとして正当性がある。
     簡単な解説:
    地下資源(化石燃料など)は、地球進化の過程で今人類が活動している“地表の領域”から取り除かれ、地下に封じ込められたものである。そうすることによって地表の環境が変化し、その中で生物が進化してきた。現在の地球環境と、人類の繁栄を含めた現在の生物世界の存在はともにその帰結である。すなわち、封じ込められたことによって現在の生物は利益を得たのである。したがって、人類による化石燃料の“使用”(地表を戻す行為)は地球の進化の方向に反する。炭素税の導入はそのペナルティーとして正当性がある。炭素税導入の理由として、温暖化の促進を防ぐためという現象面からの説明では不十分である。
     関連著作:
    ・地球温暖化の抑止に向けて―森林から見る現代文明―、 環境・エネルギー Vol.24No.1、巻頭提言、2009.1
    ・森林・林業技術者と地球倫理・環境倫理、「農林水産業の技術者倫理(編著)」 199-222、農山漁村文化協会、2006.2     

  11.     
  12. 持続可能な社会では“現”太陽エネルギーの利用を第一と考えるべきである。
     簡単な解説:
    現代社会は「地下資源利用社会」といわれるが、森林を通して地球史・人類史を考察することにより現代文明の本質を新たな視点から明らかにすることができる。すなわち、化石燃料の使用を例にとれば明らかなように、現代工業化社会は「古太陽エネルギー利用社会」と言え、それが意味するところは6.で述べた。一方、自然エネルギーもバイオマスエネルギーも“現”太陽エネルギーであり、その利用は地球の炭素循環を乱さない。
     関連著作:
    ・「真の循環型社会を求めて」日本学術会議(循環型社会特別委員会)(幹事として枠組みを提案、ドラフトを執筆)、2003
    ・森林・林業技術者と地球倫理・環境倫理、「農林水産業の技術者倫理(編著)」 199-222、農山漁村文化協会、2006.2     

  13.     
  14. 持続可能な森林・林業の推進を前提とすれば、積極的に木材を伐採し利用することこそが低炭素社会の実現に貢献する道である。
     簡単な解説:
    日本に木材資源は豊富に存在する。木材のカスケード的利用の環境保全への貢献は「新しい森林の原理」の骨格をなす。
     関連著作:
    ・森林の原理、「森林の機能と評価(木平勇吉編著)」17-41、日本林業調査会、2005.6     

  15.     
  16. 自然共生社会の構築に当たっては、環境省自然環境局、農林水産省林野庁、国土交通省水管理・国土保全局(旧河川局)の一体的管理が合理的である。将来は統合が望ましい。
     簡単な解説:
    森林の原理は自然域(河川や湖沼)にも当てはまる。すなわち、森林・自然域の管理はそれらの多面的機能の持続的な発揮であり、例えば木材生産はその範疇の中で行う必要がある。そのことが「人類の生存に必須な産業としての農業」と「林業」との違いである。都市・農村は人類の主要な活動の場(人類圏)であるのに対し、森林・自然域は環境保全にとって不可欠な土地(人類圏以外の生物圏)といえるからである。
     関連著作:
    ・森林の原理、「森林の機能と評価(木平勇吉編著)」17-41、日本林業調査会、2005.6

  17.     
  18. 流域(地域)環境読本を作ろう。
     簡単な解説:
    いうまでもなく地域は個性を持ち、その将来は地域の人々自身が模索していかなければならないが、そのアイデアは従来の縦割りシステムからは生まれない。しかし、その材料となる知識や技術は縦割りシステムの中に蓄積されており、それらを地域の人々が共有する必要がある。したがって、上述の作業は地域に持続可能な社会を創る第一歩である。
     関連著作:
    ・「宮川環境読本(編著)」225pp、東京農大出版会、2005.2
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