提言と解説(2)

提言2. 持続可能な森林管理・林業を推進するため、森林認証制度を積極的に活用するべきである。

 簡単な解説:
森林と人間の関係に関する「森林の原理」によれば、森林の環境保全機能等と木材等の利用はトレードオフの関係にある。森林の多面的機能の持続的発揮のためには適切な管理により両者を両立させる必要がある。その論理は自明であるが実行されていない。森林認証制度の活用等により早急に実行すべきである。

 解説:
 2001年に「森林・林業基本法」が制定され、森林整備の第一目的は森林の多面的機能の持続的な発揮であることが明確に宣言された。また同年、日本学術会議は“森林の多面的機能の評価について”農林水産大臣に答申した。この「答申」が認めた多面的機能の貨幣評価の試算結果(多面的機能の一部について林野庁が計算したもの)はその後の森林・林業白書で度々引用されてよく知られているが、同時に「答申」は森林と人間の関係に関する「森林の原理」を提示し、これに基づいて多面的機能を持続的に発揮させるための基本方針にも言及している(つまりこの答申は森林・林業基本法の理念を論理的に解説したものとなっている)。
 森林の原理の詳しい内容については下記の関連著作をご覧いただきたいが、要するに、@森林の機能の基本は環境の保全であること、A木材の利用は、歴史的にも将来的にも、わたしたちの生活にとって極めて有益であること、Bしかし両者はトレード・オフの関係にあり、森林の多面的機能の持続的発揮のためには適切な管理と利用により両者を両立させる必要がある、ということである。
 かつて林業界では「林業には公益的機能がある」と言われてきた。具体的には、集約的保続的な人工林経営を行えば自ずと水源涵養機能や国土保全機能などの公益的機能が発揮されるという意味で使われ、「予定調和論」と呼ばれた。林業には経済学でいうところの「外部経済」があるということである。その後、木材生産機能以外の森林の機能を、保健・レクリエーション機能、文化機能なども含めて「“森林の”公益的機能」と呼ぶようになったが、一方でスギやヒノキの一斉林施業が生物多様性の保全と相容れないこともあり(林業の外部不経済)、現在では林業における予定調和論は廃されている。
 私は林業の現場で森林の木材生産機能とそれ以外の機能を分けて議論する必要性は認めるが、後者を公益的機能として木材生産機能と並置することには懸念を抱いている。それは、どんな場合でも木材生産機能が第一で他の機能はそれに付いてくるとした、かつての予定調和論から結局は今も抜け切れていないことの証明のように思われるからである。私も森林の多面的機能の中で木材生産機能が今も極めて重要な機能であることを主張したい一員ではある。特に低炭素社会の構築においてカーボンニュートラルな木材の利用の意義は飛躍的に高まっており(提言8で解説の予定)、森林の伐採・利用が環境を保全することになるという、一昔前には考えられなかった意義が林業には内在しているからである。しかしそれでも木材生産機能は森林の多面的機能の一部であって、あくまでも上記Bの枠組みの中での極めて重要な“一機能”なのである。したがって、木材生産機能と公益的機能を分けてその双方の重要性を強調するのではなく、あらゆる多面的機能の持続的、効率的発揮を主張すべきなのである。
 私は上記Bにおける“適切な管理と利用”を合理的かつ効率的に行う技術を森林・林業界はすでに持ち合わせていると思っている。意識ある森林管理者・経営者はすでにそれを実行しているが、林業は経済活動であるため、時として利益追求を優先して不適切な管理・利用が行われる。そこで国民あるいは木材・木製品の消費者に代わって専門家が“適切な管理と利用”が行われているかどうかをチェックする必要がある。上記@の機能を保証するためであり、森林・林業基本法の理念を実現するためである。
 そのチェック・システムとして第三者機関による森林認証制度の活用が考えられる。特に従来の人工林施業と相容れない部分のある生物多様性保全に関して両者を両立させ、環境保全と経済活動の統合を図ることは自然共生社会構築の第一歩である。しかし、国の意志が働く法規制や業界の意志が働く自主規制だけでは両者の両立は実現しないだろう。私は森林認証制度を活用することによりそれを具体化することができると信じる。
 私の提言・提案の大部分は、森林・林業に関連する政策・事業等を検討する際の基本的枠組み・考え方を提言しようとするものである。しかるに本提言では森林認証制度という具体的制度に言及した。それは私がFSCジャパンに関係しているからではない。多面的機能の持続的な発揮には森林・林業関係者だけでなくあらゆるステークホルダーとの協働が必要であり、それを技術面で支える専門家の第三者機関の参加が不可欠と思うからである。

 現在、民主党の主導により木材自給率50%を実現させる方策が議論されている。林業の振興は雇用の創出・山村の活性化のために不可欠な施策と位置づけられ、まもなく具体的な施策が打ち出されるだろう。その場合でも森林・林業基本法が宣言した「森林の多面的機能の持続的な発揮」の原則は守られるべきだろう。この理念を実現しうる森林管理計画を策定し、それを確実に実行する中で自給率50%を目指すべきである。森林の国土保全機能を無視したかつての森林資源の利用がどのような結果を招いたかは、提言1で解説したとおりである。民主党は環境政策の重視を党是としているはずである。国土保全機能や水源涵養機能、さらには生物多様性保全機能等の発揮と木材自給率50%達成を同時に実現させる施策を考えてほしい。(この項、2010年4月時点での感想である)

 (「今月の提言と解説」は今後も1、2ヶ月に1回のペースで更新していく予定です。2010年4月20日記。)

 関連著作:
・「地球環境・人間生活にかかわる農業・森林の多面的な機能の評価について(答申)」日本学術会議(農業・森林の多面的機能に関する特別委員会)(幹事、森林ワーキンググループ・座長としてドラフトを執筆)、2001.11
・森林の多面的機能、「農林水産業の多面的機能(編著)」55-95、農林統計協会、2006.12、(上記答申の保存版)
・日本学術会議答申「農業・森林の多面的な機能」<第V章>の読み方、林業技術No.719 8-17、2002
・森林の原理、「森林の機能と評価(木平勇吉編著)」17-41、日本林業調査会、2005.6

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