林業振興

●以下は、ぐりーん&らいふ2013年春号に掲載された報告「林業の振興」です
  

  

森林・林業の再生に向けてさらに努力を


 前号に引き続き林業の振興について考えてみる。政権が替わって森林・林業政策がどのように変化するのか、まだはっきりしないが、政策の大枠はそれほど変わらないものと思われる。林業の振興にマジックはないと思うからである。いわゆるアベノミクスによって外材との価格差が縮まり、一息ついた向きもあろうが、やっと始まった感のある日本林業の構造的弱点克服への努力を止めてしまっては林業の持続的な振興はおぼつかない。   

  

林業は川上から川下へのつながりで成り立っている

 前号でも扱った今回の材価下落の原因は川上から川下へのサプライ・チェーンが十分機能しなかったためといわれており、林業関係者もそのあたりの仕組みをしっかり認識しておく必要がある。そこで本号では改めて、原木が製品化され川下末端の消費者に届くまでの過程でかかわる課題をやや大局的観点から見直してみる。  川上にある森林資源は林業による木材生産活動によって川中・川下に供給される。川中・川下では供給された木材に外材も加わって木材加工関連産業の手によって製品化され、それは流通過程を経て川下末端の消費者の需要を満たす(図参照)。  古来、日本では常に需要側のニーズ(需要量)が供給量を上回っていた。そのため、初めは里山から、次に奥山から、時代が下がると人工林植栽も加わって川上で資源を開拓しさえすれば、加工・流通過程に意を払う必要もなく林業は成立した。その状況は地下資源を原料として開発された代替材が出回り始めた1950年代に入っても変わらず、戦後復興に続く高度経済成長期には外材の大量流入にもかかわらず、林業は好景気に浸っていた。

木材の流通経路と代替材

図:木材の流通経路と代替材
  

  

歴史上初めての試練 外材との競争

 しかし、化石燃料とともに鉄、セメント、プラスチックなど地下資源を原料とした代替材の本格的普及が始まった1970年代以降、需要側の木材製品に対するニーズの低下により林業界は買手市場となり、まず外材との競争が始まった。これは日本の林業にとっておそらく歴史上初めての試練だったと思われる。林業は初めて川中・川下の意向や仕組みに注意を払う必要に迫られたと言える。  外材との競争は川中の加工業あるいは川下の住宅メーカー・工務店あるいは家具メーカーに到達するまでの競争である。近年の外材の供給の逼迫、さらには円安にも関わらず材価低迷が続くとすれば、この競争に負けていることになる。問題点はすでに指摘されており、川中との協力によってコスト、ロット、品質面での改善が必要であるという。コスト面ではこの過程での複雑な流通システムの改善も含めて、伐採・搬出、運搬、製材・加工の各段階で経費節減努力が必要なようである。これまでも加工技術の開発によって国産材の集成材・合板等への利用が進み、また政策的な支援もあって製材工場の大型化も進行するなど改善が進んだが、なおいっそうの努力が望まれる。なお、この努力は後に述べるもう一つの競争に立ち向かうためにも有効である。  ともかく、林業は伐採・搬出・運搬のみで成り立っているのではないこと、言い換えれば、少なくとも林業、木材加工業が一体となった木材産業の体質改善が必要であることを理解し、それを視野に入れた林業の基盤整備としての経営計画づくり、境界確定、集約化、路網整備、高性能機械導入、技術者養成であることを林業の現場も知る必要がある。   

  

代替材との競争 より本質的な試練

 けれどもパルプ・製紙関連業も含めた木材産業全体のさらに本質的な試練は、まだ漠然としか見えていないかもしれないが、代替材との競争であろう。  こちらは川下末端の消費者の意向までも含む過程での競争であり、この競争に打ち勝つ努力は、通常は「木材の利用の促進」あるいは「新たな需要の開拓」という言葉で表現されている。  公共分野での木材利用(校舎などの公共建築物やガードレールなどの道路付属設備など)やバイオマス発電に代表される木質バイオマスのエネルギー利用など、官民一体となった関係者のいわば腕力による(公共建築物等木材利用促進法や固定価格買取制度)新たな需要の開拓が最近効果を上げているが、より根本的かつ長期的には、消費者が自主的に木材製品を選択することによる木材利用の促進に向けて努力する必要がある。  そんなことは先刻承知だ。関係者はすでに努力している。そう言われる読者も多いであろう。  たとえば、木材はシックハウスの心配がない健康な住宅資材であること、木造住宅では木のぬくもりや木の文化の伝統に裏付けられた精神的安定が得られること、木材は生産過程で二酸化炭素を吸収し、加工時の使用エネルギーが少なく、伐った後は再生可能なので焼却や腐朽によっても地球の炭素循環に悪影響を与えない(すなわち、地球温暖化防止に貢献する)カーボンニュートラルな資材であることなどが宣伝され、すでに国民の多くがそれを理解してくれている。  それでも木材の需要は先細りであって、いっこうに改善されないという声がある。   

  

森林がなくても困らない現代の生活

 その最大の原因は、鉄やセメントや石油などの地下資源を原料とし化石燃料を用いて製品化される代替材が、強度や耐久性、耐火性、使い勝手の利便性などにおいて極めて強力なことである。極端に言えば、木材がなくとも現代生活はそれほど困らない(この点が木材と同様の光合成生産に由来する食料品と異なる点である)。  また、1リットルのペットボトルのミネラルウォーターの値段と同量のガソリンの値段はほぼ同じである。いくら水は貴重とは言え、片やガソリンは車を30kmも走らせることが可能であり、その“安価で”大量に得られる化石燃料の利便性が現代文明を支えているのである。  しかし一方で、これら地下資源の大量使用が各種の廃棄物汚染や地球温暖化、生物多様性喪失を進行させ、深刻な地球環境問題を引き起こしているのである。  さらに原因の第二は、人々はまだその地球環境問題、特に温暖化問題の深刻さを十分に認識していないためと考えられる。その深刻さは頭では理解できても具体的には認識できるものではない。まして実際に極めて過酷であった原発事故を回避するための化石燃料への回帰がやむを得ないとされている現状ではなおさらである。  私は、この深刻さの理解が国民に行き渡り、代替物の使用を我慢してあえて少しでも多く地球環境にやさしい製品を選ぶエコロジカル志向の消費者を増やしていくことが、回りくどいやり方ではあるが、やはり木材の需要を支えるベースになると信じている。   

  

外材に打ち勝つためにも

 私は温暖化などの深刻さを理解していただく一つの説明方法として、鉄鉱石や化石燃料などの主要な地下資源は、地球表面の現環境が長い地質時代を通じて生物の進化の影響も加わって形成された過程でそこから地下に廃棄された物質であり、それら地下資源の利用(地表への持ち出し)は人類をも出現させた46億年に及ぶ地球進化の方向に逆行する行為とみなせる点を強調している。  地下資源利用の問題は単に地球環境の危機につながるという以上の意味を持っていると思われるのである。さらに言えば、産業革命以来築かれた現代文明はこのような、場合によっては人類の犯した重大なミスにつながるかもしれない懸念を有していると思われる。代替材の使用はこのような弱点を持っているはずである。   

  

地球環境を悪化させる代替材・外材

 ところで、外材が国産材に比べて価格面で優位に立つ理由は種々挙げられるが、逆にもっとも不利であるはずの運搬費が低く抑えられ、重量物が遠距離を輸送されてくる割にはそれが価格に反映されない点もその一つである。  その原因はすでに述べたように化石燃料が安価であるためであって、同じ木材の利用でありながら実は多量の二酸化炭素を排出しており、その指標がウッドマイレッジの値である。つまり外材の最大の弱点は大きいウッドマイレッジである。  したがって、前述した温暖化の深刻さが理解されれば、ウッドマイレッジの重要性の理解も進むことになる。この点でも地下資源利用と地球環境問題の関係を繰り返し、繰り返し消費者に説明する必要があると思われる。少々荒っぽい言い方をすれば、戦う相手に勝つためには敵の弱点をつくことである。外材や代替材の弱点は地球環境を悪化させている点である。   

  

川上・川中・川下が協力し基盤の整備を

 さて、林業の振興の話題に戻ろう。林業は川上だけで成り立つものではない。川中・川下との協力がいまさらながら重要であることを今回の価格下落が証明している。協力しながら現林業の弱点を克服する努力が必要である。今回は、場合によっては川上での生産調整も必要であろう。国有林では出材調整も行われていると聞く。  幸い、林業関連予算の増額があるとも聞く。この機会に業界を取り巻く環境の多少の変動には十分耐えられる強靭な産業としての林業の構築に向けて、その基盤整備につながる諸事業を確実に進めていかなければならない。   

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