土木分野での木材利用

●以下は、ぐりーん&らいふ2017年夏号に掲載された報告「森林・林業の周辺事情 土木分野での木材利用」で、おもに林業関係者にお読みいただきたいものです。
  

  

技術開発で土木分野での利用促進
ー進む土木分野での木材利用ー


 日本の森林資源が充実してきて、その積極的な利用を促す「木づかい運動」が進んでいる。運動の最先端ではバイオマス発電利用や大型木造公共施設の建設、さらには木造高層建築への挑戦が始まっているが、土木の分野でも木製治山ダムの築設から始まった挑戦が地盤強化など新たな分野に広がってきている。本稿では土木分野での木材利用の新しい状況を概観する。   

  

地中で活躍し続けた木材

 “土木”の名前が示すように、かつて土木・建築の分野で使われた材料は土と木、そして石であったが、主役は何といっても木材であった。大正時代になって鉄やコンクリートが普及し始め、大型の建築物や構造物がこれらによって建築・建造されるようになっても意外なところで木材が大量に使われていた。すなわち、東京駅や旧丸ビルの例で知られているように、これら大型の建物や橋梁を支える杭基礎としての使用である。
 例えば東京駅の場合は、1908年(明治41年)から始まった基礎工事で長さ3.6〜7.2mのマツ杭を60p間隔に11,050本打ち込み、その上に1.2m厚のコンクリート基礎が施工された。この工事で大量に使われ、摩擦杭としての効果を発揮したマツ材は旧青森営林局から供給されたという(完工は1914年)。一方1923年(大正12年)に完成した旧丸ビルの場合は、約1haの面積に直径30p長さ15mの丸太を1,350本、同じく長さ13.5mのものを4,093本、合計5,443本が使用されており、その量は5,000m3を超えるという。この場合、杭の先端は東京地区の基盤地層である東京礫層まで打ち込まれており、支持杭としての効果を発揮していた。当時このような長尺のマツの大径材は国内からは供給できず、使用されたのは米国オレゴン州産のベイマツ(ダグラスファー)であった。
 これら地中で活躍した木杭は水で飽和した土層中では腐敗が進まず、明治時代に施工された杭基礎の中には現在も現役のものが多数存在している。木杭の使用は、木材の供給が窮迫し一方でコンクリート杭が大量に供給されだした戦後の1950年代まで、極めて一般的だったという。このように、防火対策の観点から火災危険区域で木造が禁止された時代を超えて、木材は地中で活躍し続けたのである。   

  

期待される災害時の木橋活用

 土木分野の木材利用でかつて最も目についたのは木橋で、1940年代までは道路橋ばかりでなく鉄道橋としてもよく利用されていた。しかしこれらも徐々に鉄製やコンクリート製に置き換わり、1960年代にはすっかり姿を消してしまった。その木橋が姿を変えて再び現れたのは1980年代末で、それを可能にしたのは、集成材の開発という技術革新であった。この「近代木橋」は、最初は歩道橋として現れ、2003年頃までには橋長140mに達する本格的な道路橋が完成した。しかしその後はコストの面から需要が拡大せず、現在はコストを抑えた木橋の普及に向けて部材寸法を統一し、組み立てや解体を容易にしたトラス橋や角材橋などの開発が進んでいる。これらは災害時の応急橋や仮設橋としての活用が見込まれる。   

  

全国に広がる木製治山ダム

 河川や渓流では水制、沈床、護岸などの材料として伝統的に木材が多用されてきたが、その殆どは小規模な構造物であった。しかし一部の渓流では江戸時代から、比較的大きな構造物である治山ダム(堰堤)も施工されていた。
 そのような堰堤としてもっとも著名なのは、岩木川支流飯詰川の支流坪毛沢に1916年〜1958年にかけて施工された12基の木堰堤群であり、2006年時点で11基が確認されている。この木堰堤群は旧青森営林局で最初の治山工事と言われており、施工記録も残されているため、2013年に「後世に伝えるべき治山〜よみがえる緑〜60選」の一つに選定された。
 治山事業の流路工でも大量の木材が使われた例がある。1984年の長野県西部地震によって発生した巨大土石流の通過跡の王滝川支流濁沢に施工された渓間工はその例として著名(前記60選の一つ)である。この木製流路工の施工後28年目の調査(2013年)では、摩耗によって帯工最上段の部材で部材断面の約2分の1が消失していたが、流水に常時浸かる部位の部材の腐朽深は数o程度で、最上段の部材を除けば部材の劣化は殆ど進んでいなかったという。
 その後、1998年頃から木製治山ダムの研究が急速に進み、安全性や耐久性に対する調査結果に基づく基本的で統一的な設計指針が示されたことで、現在、木製治山ダムの建設は全国に広がっている。その施工数は1984〜2013年までの30年間に全国で1,166基に上るという。
現代の木製治山ダムは木材を井桁状に組み、その中に石材を詰めて、構造物の自重で土圧などの外力に抵抗する重力式のもの(枠ダム型と称し、木部の接合方法の違いによりボルト接合式と校倉式がある)と、単にスギの大径材を繊維方向が直交するように積み重ね、接合金具で連結するだけのオールウッド型がある。後者も安定性は重力式で計算するので、堤底の上流側部材上に埋め戻し土を載せて、土石に比べて単位体積重量の小さいスギ材の自重を補っている。オールウッド型は需要の少ない末口30p以上の大径材を大量に用いるので、木材需要の喚起にも役立っている。
 治山事業ではそのほか、山腹斜面の土留工や柵工、筋工、修景工、海岸防災林での静砂垣工や防風柵工などに積極的に間伐材などを利用するようになっている。   

  

液状化防止に有効な新工法も

 土木分野の木材利用でいま最も注目されているのはやはり「基礎」の分野である。コンクリート杭の普及で一時すたれていた木杭が2000年以降復活してきた。特に2007年に日本森林学会、日本木材学会、土木学会が連携して発足させた「土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会」の活動がその流れを後押しした。
 わが国では戦後の高度経済成長期以降、土地利用が平野の軟弱地盤地域に拡大し、そこに建設される構造物の沈下や変形、液状化などの被害を防ぐため、構造物を安全に支えるための対策や地盤そのものの変形を抑制する対策が不可欠となった。そして、木材は経済性や現場汎用性に優れているほか地下水位以深では腐朽しないなどの特徴を有するため、特に佐賀平野などの軟弱地盤地域で再び注目されることとなった。
 現在、シルトや粘土などの軟弱地盤対策として木材を用いている現場にはボックスカルバートや側溝、擁壁を敷設する道路建設現場があるが、ここでは建物などの基礎施工時の軟弱地盤対策を二、三紹介する:@パイルネット工法は軟弱地盤中に木杭を多数打ち込み、杭頭部を連結材で繋ぎ、杭群と杭間の地盤を一体化して上載加重を深層の杭先端に伝え、安定させるものである。A環境パイル工法は円柱状に成形した木材を圧入専用重機で地盤中に無回転で圧入し、家屋を支える工法で、伝統的工法ではあるが、防腐・防蟻処理(生物劣化対策)した木材を使い、支持力機構を明確にして信頼性を増したもので多数普及している。
 B特に緩い砂地盤の液状化対策として、地盤そのものを液状化しにくいように強化する液状化対策工法が開発されている。この工法は緩く堆積した飽和砂地盤に丸太を多数打設し、打設された丸太の体積分地盤を密実にすることにより液状化を抑制するものである。この場合、丸太は間伐材で十分であるので間伐材の利用拡大が見込まれ、飽和地盤内では丸太は腐朽しないので温暖化対策防止対策としてのカーボンストックの効果も発揮される。なお、地表付近に不飽和な部分がある地盤では、その部分に生物劣化対策を施して丸太本体を地下水面以下まで打設する。

 本稿では最近急速に普及してきた土木分野での木材利用の現状を報告した。木材の需要拡大は木造の高層建築普及のための技術開発に加え、一般土木分野での木材利用拡大に向けての技術開発も進めることにより一層進むものと思われる。   

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