森林認証制度

●以下は、ぐりーん&らいふ2016年夏号に掲載された報告「いま森林・林業に思うこと 森林認証制度」で、おもに林業関係者にお読みいただきたいものです。
  

  

豊かな森林を将来に継承する


 最近、森林認証制度への関心がにわかに高まっている。それは本年1月東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会から、2020東京大会の開催に必要な物品やサービスを調達する際に適用される「“持続可能性に配慮した”調達コード」の基本原則が発表され、木材の調達基準もこの原則に即して策定されることが決まったことによる。すなわち、2020年の東京オリンピックに関する木材の調達基準では、国際的な森林認証制度による“認証材”は無条件でこの基準を満たすものとして認められる公算が大きくなったのである。そこで本号では森林認証制度について改めて考えてみることにした。   

  

「責任調達」は世界の潮流

 5月にパブリックコメントに供された「持続可能性に配慮した木材の調達基準(案)」では、組織委員会は以下の項目を満たす木材を調達するとしている:
@伐採に当たって、原木の生産された国又は地域における森林に関する法令に照らして手続きが適切になされたものであること、
A中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来すること、B伐採に当たって、生態系の保全に配慮されていること、
C伐採に当たって、先住民族や地域住民の権利に配慮されていること、
D伐採に従事する労働者の安全対策が適切に取られていること。
 このうちBと@は木材の生産にあたって従来から要望されてきた事項である。特に@に関しては最近合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(合法木材利用促進法)が成立した。
 しかし近年、調達にあたって要求される事項はこれだけにとどまらなくなった。そのことは前述の基本原則に示されている。すなわち、組織委員会は調達における持続可能性の原則として「原材料調達・製造・流通・使用・廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じて、環境負荷の最小化を図ると共に、人権・労働等社会問題などへも配慮された物品・サービス等を調達する」とした。
 具体的には以下の4つの原則に基づいて持続可能性に配慮した調達を行っていくことになる:
(1)どのように供給されているのかを重視する、
(2)どこから採り、何を使って作られているのかを重視する、
(3)サプライチェーンへの働きかけを重視する、
(4)資源の有効活用を重視する。
 この方針に沿って木材調達基準(案)に加えられたのがA、C、Dであり、このような調達は「責任調達」と呼ばれ、調達の世界的潮流となっている。つまり、調達はグリーン購入法や合法性の確認といった“環境調達”の時代から“責任調達”の時代に入ったのである。
 一方、例えばFSC森林認証制度における森林管理に関する10の原則の中には、
原則2:労働者の権利を守り、労働者と良好な関係にある、
原則3:先住民族の伝統的な権利を尊重している、
原則4:地域社会の権利を守り、地域社会と良好な関係にある、
原則7:森林管理が計画的に実行されている
という4つの原則が含まれている。このように森林認証制度は責任調達時代を先取りした制度であるといえる。   

  

FSCとSGEC

ここで森林認証制度の概要を紹介しておこう。
 この制度が生み出された発端は、20世紀後半に加速された熱帯林の破壊の事実が世界中に伝わった後の1980年代に、ヨーロッパで起こった熱帯木材の不買運動である。このとき木材供給の側から多くのエコラベルが発行されたが、その信用性が問題となり(90%以上が信用できないとされた)、客観的かつ公平に森林管理を評価する仕組みの必要性が浮かび上がってきた。
 そこで、そのことを検討する組織として、環境NGO、先住民族団体、木材会社などが集まってFSCが設立された。そして、リオデジャネイロで開催され「森林原則声明」が発表されたいわゆる“地球サミット”の翌年の1993年に、環境的に適切で、社会の便益を満たし、経済的に持続可能な林業を世界中で推進するために統一した一つの基準で森林管理を評価するFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)の国際認証制度が発足した。その後各国でそれぞれの国情に応じた独自の制度を設ける動きが広がり、その連合体であるPEFCが1999年に発足した。なお、森林認証制度には森林管理の認証であるFM(Forest Management)認証と加工・流通過程の管理認証であるCoC(Chain of Custody)認証がある。
 わが国では2000年に速水林業がFM認証を、2001年に(株)三菱製紙がCoC認証を取得して森林認証制度が知られるようになった。
 そして、2003年にはSGEC(緑の循環認証会議)が設立され、国産材の利用推進を意識したわが国独自の森林認証制度がスタートした。さらにSGECは本年6月にPEFCと相互承認を行って、国際認証制度として認められるようになった。   

  

広がる認証材の需要

 しかしながらわが国での森林認証制度の現在の認知度は、欧米諸国に比べまだかなり低位の水準にある。
 それでも2015年秋に環境管理・監査の国際規格ISO14001が改訂され、認証にサプライチェーンを通じた生物多様性への配慮が求められるようになったこともあり、製紙業界では紙パック、パッケージ、段ボール、テッシュペーパーなどの分野で認証紙の利用が進み、最近「森林認証制度は普及期を迎えそうだ」と報道された。
 また、徐々にではあるが木材業界でも認証材の需要は広がりつつある。建築関係では、すべての木材部分に認証材を用いる“全体認証”に、内装材として認証材を利用するだけの“部分認証”も加えると、ほぼ全国各地で事例がみられるようになった。さらに、認証材を利用した家具の製作も事例を増加させている。浜松市では先日、民・官連携のもと、川上から川下までの業界が糾合して、森林認証制度とCLTの利用を組み合わせることにより両者の同時普及を狙う浜松地域FSC・CLT利活用推進協議会が発足した。   

  

客観的評価生かした管理・経営を

 4年後に開催される東京オリンピック大会の木材調達基準に事実上森林認証制度が組み込まれたことによりこの制度への関心は今後さらに高まるであろう。これまで同制度に関心を持たなかった森林・林業・木材産業関係者の中にもこの機会に同制度導入の検討を始めようと考える人もいるだろう。そこで森林認証制度についてもう少し述べておきたい。
 森林認証制度は適切に管理された森林から産出される林産物を消費者に利用してもらうことにより(あるいはその森林自体を適切に利用することにより)不適切な森林管理を排除して、世界中で持続可能な森林管理を推進し、豊かな森林を将来世代に継承していくことを目的としている。そのためには生産された木材等が加工・流通過程で違法伐採木材など認証材以外の材と混ざらないように管理し、出来上がった木材製品等に目印のロゴマークを付して消費者に分かるようにする必要がある。消費者は認証材製品を積極的に購入することにより、持続可能な森林管理に貢献できるのである。
 一方、森林・林業・木材産業関係者はもちろん、林産物の加工・流通・販売等にかかわる者の営みは森林資源の持続可能性を前提として成り立っているはずである。したがって、これら森林とのかかわりを生業とする者は何らかの形で適切な森林管理に貢献して森林を持続可能に維持する使命を持っていると言える。例えば森林・林業基本法において「森林整備の第一目的は森林の多面的機能を持続的に発揮させること」としているのも同様の趣旨である。
 この時、適切な森林管理とはどのようなものであるかを森林認証制度は具体的に示している。したがって前記関係者は、森林認証制度にかかわらなくても当該制度が示す適切な森林管理(の原則等)を実行する、あるいはそれを支援する必要があると言えるだろう。
 森林認証を取得することはこの活動に積極的に参加することを意味する。本来、森林認証の取得は製品に付加価値を付けるためとか営業を有利に展開するために行うものではない。自ら森林の適切な管理・経営を行い、消費者にも働きかけ、消費者を巻き込んで、世界中の森林の持続可能な管理に貢献する覚悟で飛び込むものである…と言ったら言い過ぎだろうか。
 制度の概要で述べた通り、森林認証制度は経済的持続可能性を満たすことを3本の柱の1つとしており、林業・木材産業のために創設された制度である。さらに、森林認証制度(FM認証)の審査や年次監査では自己の林業活動が適切かどうかが客観的に評価されるため、その評価を生かしていけばより良い管理・経営が保証されるのである。森林認証制度をそのように生かしていくことこそ認証取得の目的と言えるだろう。川中・川下の業界へのCoC認証の取得推奨も含めて、森林認証制度のさらなる普及を期待してやまない。   

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